顔面神経麻痺で予後不良と診断された症例
症例 68歳 女性
既往歴 糖尿病
右顔面の顔面神経麻痺
X年6月18日に発症。20日後に耳鼻科を受診しステロイドによる治療を受ける。しかし改善乏しく、医師から予後不良の判定を受け7月13日に鍼灸紹介となり治療開始となりました。
●初診時の状態
右顔面の表情筋(額、口、鼻の筋肉)は全く動いていない。目の筋肉は瞼の収縮が感じられるが目を完全に閉じることはできない。
目が閉じれないためドライアイになり充血している。
生活面の支障:口から水がこぼれ、食事や飲水に困っている。➡人前で食事することに抵抗感を持つようになった。
●治療
表情筋への鍼
顔面神経走行部位への鍼
●施術経過
(1診目)鍼治療直後「視野が広がった気がする」
(2診目)額の筋肉に力が入るようになる、「うー」の口で力が入るようになる。
鍼治療後「鍼を受けた後は顔が軽くなって動きが良くなる」
(5診目)「お客さんの前に出るのに顔を気にしなくてよくなった」
(6診目)安静時の左右差軽減、口角を挙げる動きができるようになる。
「水を飲んだ時に口から漏れる水の量が減った」
(7診目)「口が動かしやすくなった」
(12診目)「耳鼻科で安静にしている時の顔の左右差なくなったといわれた」
(14診目)額の動きの左右差なし。軽く目をつぶる動作も左右差なし。
(18診目)安静時の左右差なし。強く目をつぶった時の左右差もなし。瞼の動き改善。
「周囲の人からも左右差なくなったと言われた。コンタクトが入れやすくなった。」
➡日常生活の支障が減りご本人満足されたため治療は終了となった。
※「 」は本人の自覚的変化、太字は施術者から見た評価
顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺とは顔の筋肉を動かす神経がうまく働かなくなって、顔の左右半分が動かなくなる状態です。顔面神経麻痺になると顔の表情が作りにくくなります。
顔面神経麻痺の60~75%はBell麻痺といって、明確な原因わからずウィルスが関係しているといわれています。
多くの症例が完全に回復します。しかし、上記に挙げたような高齢で糖尿病がある方や高血圧の既往歴がある方は予後不良になりやすいといわれています。
●顔面神経麻痺の
顔面神経麻痺について
上の図の黄色い物が「顔面神経」になります。
顔面神経は耳から出てきて顔の表情筋(口、頬、鼻、目、額)に枝分かれしていきます。
顔面神経麻痺の鍼灸治療の役割
1,神経再生を促す
2,表情筋を解す
3,後遺症の緩和
1.神経再生を促す
顔面神経の走行上であったり、表情筋に鍼をすることで顔面神経の血流が良くなり神経の再生を促すことができます。しかし、神経の再生は損傷の程度にもよりますが健常な神経で1か月に1cm程度と言われています。また、神経が損傷を受けてから3か月が再生が活発な時期になり3か月以降再生スピードは緩やかになり1年経過するとほぼ平衡状態となってしまいます。そのため顔面神経麻痺になった場合は早期の治療が大事になります。
2.表情筋を解す
顔面神経麻痺になってしまうと表情筋が上手く使えないことから普段とは違った筋肉の使い方になってしまいます。そのため、顔の筋肉が懲り固まり顔の重さ等を感じられる方が多いです。
そのため鍼で筋肉をほぐして不快感を軽減させます。
3.後遺症の緩和
顔面神経麻痺の後遺症に①迷入再生②ワニの涙があります
①迷入再生
顔面神経は再生過程で本来伸びていくはずの筋肉とは別の筋肉へ伸びてしまう迷入再生という現象が起きる場合があります。迷入再生が起きてしまうと例えば、目をつぶった時に同時に口が動いてしまう等の顔の動きが不自然になります。
②ワニの涙
顔面神経は表情筋だけでなく涙腺の活動にも関与しています。先ほどの迷入再生のように表情筋にいくはずの神経が涙腺の方にまで伸びてしまうことで食事の時に咀嚼に合わせて涙が出てくるようになるといったことがあります。
メカニズムは不明ですが上記に挙げたふたつの後遺症のある方に鍼をすることで症状が改善・緩和するケースが多くあります。